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輝く日の宮 [たまごの本棚]

文庫本が好きです。
どういうわけか、好きです。
たぶん、安くて、携帯に便利で、場所塞ぎにならないからだと思います。
だから、興味をそそられる単行本が出ても、
「これは文庫化されるんじゃないかな?」と思われるものは、すぐには買いません。
2,3年の間、文庫化されるのを待つのです。
(辛抱しきれず、つい買ってしまうものもありますが)

ここ数年、文庫化を待っているのは、
猪瀬直樹『こころの王国』と川上弘美『古道具 中野商店』です。
楽しみにしているのですが、なかなか文庫化されません。
後者などは、とうとう単行本を買おうと決意して、書店に出向いたのですが、
ついこの間まで棚にあった一冊が、幸か不幸か売切れてました。
とりあえず「幸」だと解釈して、文庫化を待つことにしました。

文庫化されるのを待っていた一冊に、2003年6月に刊行された
丸谷才一『輝く日の宮』があります。
丸谷さんの本は文庫で読むことにしているので、単行本は買わないことにしているのです。
ほら、気分的に単行本で読みたい本と文庫で読みたい本があるじゃないですか。
タマゴにとって丸谷さんの本は後者に属します。
(もっとも、『後鳥羽院』ほか数冊は止むを得ず単行本で持ってますが)

『輝く日の宮』、刊行当時からたいへんな評判でしたね。
天邪鬼のタマゴは世評が高ければ高いほど、触手を伸ばすのに躊躇を覚えてしまいます。
ちょうどその頃、高校時代の恩師のご自宅を訪問する機会があり、
先生の書斎にお邪魔して数時間談論したのですが(ほとんど一方的にタマゴが喋った・・・)、
積み上げられた単行本の一番上に『輝く日の宮』がありました。
「いやぁ、先生。『輝く日の宮』ですかぁ」
「ん・・・・まだ読む時間がなくて・・・。キミは・・・もう読んだ?」
「いえいえ、私は文庫になるのを待っておりまする。文庫で読みたいもので」
そんなやりとりをしたのを覚えています。

その待望の『輝く日の宮』が文庫化されたのは去年の6月。
思いがけず早かったですね、文庫化されるのが。ちょっと驚いた。
でも、欣喜雀躍というのですかね、ともかく喜び勇んで書店に向かいました。
しかし、ちょっぴりガッカリしましたね。本を見て。
単行本をいつも横目で見ていたせいか、文庫本は妙に安っぽい感じ。
たぶんあれは講談社文庫のカバーのせい。
和田誠さんのデザインのことじゃないですよ。カバーの紙の質のせい。
この近年、講談社文庫のカバー、紙質が変わったじゃないですか。
あれ、なんていう紙が知りませんけど、とにかく妙にツルツルになった。光沢がある。
なにか『輝く日の宮』とマッチしないものを感じましたね。
でも、まぁ、仕方ない。ここまで文庫化を待っていたのだから、買いました。

買いましたけれど、なんとなく読む気がしない。
カバーのせいもある。それに、あれは長いお話でしょ。ちょっと気楽に読めない感じがして。
一度、チラと読みかけたことがあったのですけれど、
いきなり泉鏡花ばりの文体に面食らって、数ページで撤退しました。
以来、廊下の文庫棚に据え置いたまま。

それがどういうハズミでしょうね。不思議なもんです。
昨夜、ブログを書いたあと、そろそろ寝るか、と思って厠に入ったのですね。
厠へは用の大小を問わず、文庫本を持って入る癖があるのですが、
廊下の文庫棚から選ぶのは丸谷さんの本であることが多い。
なぜかというと、ちょうど厠の向かいに丸谷コーナーがあるのですね。
しかし、最近、エッセイばかり読み返していたので、ちょっと気詰まりな感じがした。
丸谷さんのエッセイは実に軽妙洒脱で面白いのですけれど、
稀にちょっと調べ過ぎ、というか、昨日のタマゴブログのように、
あれこれ引用・参照しすぎてウザったいこともあるのですね。
だから、エッセイはどうもなぁ・・・という気分になった。
そこで、ごくごく気楽に、というか、なんとはなしに、というか
しばらく放置していた『輝く日の宮』を手にとってみたのです。
で、厠で読み始めたところ、これがなんと、実に面白い!(今更言うのも野暮ですが)

結局、そのまま寝床に持ち込んで、気がついたら夜が白んでました。
丸谷さんの小説は風俗小説をこころがけてらっしゃる面がたぶんにあって、
それは『裏声で歌へ、君が代』や『女ざかり』でもいかんなく発揮されてましたけど、
両著については、タマゴ、あまり風俗的なことに関心がなかった。
というか、風俗に拘るあまり(丸谷さん風に言えば)話の柄が小さくなってるんじゃないか、
と少し否定的な気持ちがありました。
ふたつとも面白い小説なのですよ。読み出したら止まらないところがある。
でも。読み終えて、「読んだなぁ」という充足感はなかった。
古い言葉でいえば、ちょっと中間小説っぽい感じ。
もっとも、たとえば『裏声で歌へ、君が代』に出てくる、
スティルネルの『唯一者とその所有』の解釈なんか、とても面白かったのですけれど。
といいつつ、時をおきて、ついつい何度か読み返してしまったんですけども。

で、『輝く日の宮』はどうか、と言いますと。
小説の舞台となっている時代が、タマゴにとって身近であるせいか、
風俗面もなかなか面白く読めました。
1991年、東京23区の市内電話局番がすべて4桁になった、とか。
そーそー、そーだった、と電話をかけるのがちょっと億劫になった!なんて。

加えて、この本では丸谷さんの日本文学に関する造詣がいかんなく発揮されてます。
ま、題材が題材(失われた「源氏」の一帖を求めて!)だけに、それは然でしょうし、
洋の東西どころか古今東西を問わぬ丸谷さんの文学的造詣はつとに有名ですが。

もっとも、ゲップの出るところもあって、(ちなみにこのブログもよく「ゲップが出る」と評されます)
それは丸谷さんお得意の「御霊信仰」の話。
お気に入りなのはわかりますけどねぇ、もうそろそろいいじゃない、
御霊信仰がお好きなのはよーくわかりましたから・・・・という感じ。
(丸谷さんの御霊信仰論を堪能されたい方は、
 『忠臣蔵とは何か』(講談社文芸文庫)をお読みください。)

ま、とにかく『輝く日の宮』、面白いこと請け合いです。
「源氏物語」の失われた一帖は果たして実在したのか?という探偵小説仕立てにもなっています。
そういえば丸谷さん、探偵小説がお好きでしたね。「幻の女」なんて小説への言及もありました。

実はあと30頁ほど残っているんですけど、
終わってしまうのが惜しくて、こうしてブログを書いて先延ばしにしているのです。
これを読み終わってしまったら、次は何を読んで暇つぶしをしよう・・・・と。

そういえば、チェスタトンに有名な言葉がありましたね。
「本を読みたいという熱心な人間と、
 読む本がほしいとう退屈な人間とのあいだには、たいへんな違いがある」。
タマゴは、もちろん後者に属します。

輝く日の宮

輝く日の宮

  • 作者: 丸谷 才一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/06/15
  • メディア: 文庫


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