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犬と呼ばれた男 [たまごの本棚]

今年になって買ったなかで一番面白い本。
山川偉也著『哲学者ディオゲネス』(講談社学術文庫、1,400円)。
今日買ったばかりで、全500頁のうちまだ半分弱しか読んでませんが。

古代ギリシャ・アテナイでボロを纏って、首から頭陀袋を下げ、甕(壷)の中に住み、
ソクラテスやプラトン、それにアテナイ市民から「犬」と蔑まれた哲学者。
犬儒派といえば、「ああ」と頷かれる方も多いでせう。
もっとも、著者はこの訳語は誤りである、と指摘しています。
「犬」はともかく「儒」がイカン、と。
「儒」とは「儒学」のことであり、ディオゲネスの思想はまさしく「儒学」と対極的なものであった、と。

著者は文献学的にディオゲネスに関するこれまでの学説を詳細に検討し、批判を加えています。
テクスト・クリティーク、というのでせうか。
このあたり、あまりに詳しすぎて少々煩わしい感じもしますが、
ところどころに挿入されるディオゲネスの言葉が実に面白い。(真偽はともかくとして)

たった今、読み終えた頁(194~195頁)だけを取り上げてみても。
たとえば、ディオゲネスは海賊に捕まって奴隷の身となった。
ところが彼は海賊の言うことを素直にきかない。
それどころか、自分の買い主まで指定する。「この人にわしを売れ」。
その理由は「この人には主人が必要だ」。
囚われの奴隷の身でありながら、買い主に対して「主人になってやる」というのです。
こうして彼はある高貴な人物に買われていくわけですが、そこで彼が言うには、
「わしがたとえ奴隷だとしても、わしの言うことには従ってもらわねばならぬ」
「(わしに)命じられたことをやるように」。

さらには、これはどうです。
かのアレクサンドロス大王と遭遇した日のこと。
大王曰く「余が、大王であるアレクサンドロスだ」、
ディオ答えて曰く「わしが、犬のディオゲネスだ」。
ええな~、たまりませんな~。
ほかにも可笑しなエピソード満載です。

しかし、これはオオマジメな学術書。
どうやら著者は、哲学史のなかで低く扱われがちなディオゲネスを、
今日的コスモポリタンの先駆けとして称揚したいようなのですが、
いやいやどうして、こうしたエピソードの数々だけでも、哲学史上に燦然と輝く存在と言えませう。
なにしろソクラテスとかプラトンには、諧謔はあっても、ここまでの闊達さがない。
ソクやプラのオモシロさはそのキマジメさにありますが(本人、オオマジメなのが、かえってオカシイ)、
如何せん、どこか気詰まりなところがある。窮屈な感じがする。
その点、ディオゲネスはよいですねー。
なにより笑える。単に可笑しいだけでなく、独特の哲学に裏打ちされた生きザマになっている。
つまり、一種の芸です。戯れているようにみえて、その実オオマジメな、リアルな芸。
だからこそ、余計に可笑しい。

あんまり面白いので傍線を引く暇がなく、間に合わせに付箋を貼っていたら、上掲画像のようなザマに。
どこが大事で、どこに感銘を受けたか、これではサッパリわからん。つまり付箋の意味がない。
ウズラ曰く「ぬり絵の次は、今度は貼り絵か・・・。このヤマシタキヨシ!」。


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horigon

尾篭な話に続いて、今度は哲学の話。
ヤマシタ画伯の知識は、守備範囲が広いというか、当方のような
凡人にはマネができませぬ。
当然のことながら、犬儒派といえば、「なんやそれ?」と頷く方の
部類の人間で、毎週、リメークした「ヤッターマン」(ご存知?)を
楽しみにしております。
by horigon (2008-02-01 07:30) 

okko

なるほど、偉いや(偉井)さんだけのことはありますな、偉い!哲学を理解しやすく、ダラズでも面白く読めるようにしんさったとは。 
ソクプラは、全然知らんですけど、妙に気取っておいでですな。犬儒派はキニク学派ともいう・・・キニクとはなんぞや? と又、辞書をひも解けば、なんやら難しげなことがダラダラと、誰かさんのブログのように書いてあるわ・・・・・結局は、「人を見た目で判断してはならぬ、ボロを纏っておっても、伝統や見栄を意識的に無視しておるんじゃから」っちゃなことですわな。
おお、シニックとはここから出た言葉であったのか!
朝から大発見じゃ、    
で、何の話やった?  見た目にこだわらずに、お付き合いをお願いいたします!
by okko (2008-02-01 10:21) 

okko

偉也のまちがいでした、お詫びとともに訂正させていただきます。偉いすんません。
by okko (2008-02-01 10:23) 

侘び助

おんぼろ頭・・・侘び助は哲学=鉄学・・・難くて
噛み砕き・・・飲み込み出来ませぬ・・・お許しを~
by 侘び助 (2008-02-01 13:44) 

温泉たまご

horigonさん。
卵も往時、「ヤッターマン」を毎週楽しみにしていたクチです。よって、今回の放送も楽しみにしていましたが、第1回を見ただけで、あとは無念にも見れずにいます。アラホラサッサ~。

okkoさん。
ディオゲネスの言行は、実に卵好みで、卵自身にも似ているところが多いです。もっとも卵の場合は「見た目で判断」したままの人間ですが。いやいや、人間どころか、昨夜は鶉に「犬」扱いされました。ますますディオゲネスです。

侘び助さん。
哲学=鉄学、うまい!哲学の面白いのは、どうでもいいことををグニョグニョ考えているうちに、すっかり錆びついてしまい、実生活で役に立たない人間が出来上がってしまふところです。卵はまさしくその典型と言えませう。
by 温泉たまご (2008-02-09 20:08) 

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